短編|再会、そして別れ

「あの子をよろしく」
 忌々しい記憶だ。アイツは俺に少女を押し付け、怪しい黒ローブを纏った人間達と共に青い星へと飛び立っていった。聖なる属性を持つ名前を持つ王家の血を引いた人間は子を成した後豊かに水を湛えた美しい星の供物となるのが定めだったからだ。前の世界では定めを受け入れた彼女を救えなかったが、今回なら救えるかもしれない。
 居ても立ってもいられなくなった俺は目標に執着してしまい母をも殺そうと決心した少女を置いて船を飛び出してしまっていた。

「ストロベリー王国の姫様はどんなに離れた星から来た人間も歓迎です」
 兵士にそう言われながら甘ったるい匂い漂う星の城を歩いていた。フードを深く被った赤髪の男は美しい庭を見つめながら話を聞く。子供の頃と変わらない風景に笑みがこぼれてしまっていた。
「姫様の間にこんな怪しい人間を通してもいいのか?」「こら聞こえるぞ」と兵士たちの会話が聞こえてくるのを聞こえなかったふりをし王座の間へと向かった。
「ようこそ我が王国へ。歓迎するわ? 怪しい旅人よ」
 玉座に座っているのは不敵な笑みを浮かべるピンク色の髪の女性。全く変わらない姿に見とれてしまう。
「ふむ、貴方そのフードは外さないのかしら? 姫の前よ?」
「……人に見せることが出来ない身なもので。許してほしい」
 自分はこの世界のDr.ARMではない。下手に見せることは出来ないのも当然だと男は考えていた。
 まあいいわ、女性は軽くため息を吐き笑顔を見せる。
「どうかしら私の王国は。綺麗でしょう」
「……平和でにぎやかな場所だと思う」
「当然。フィオナ・リザレクション様が統治しているのよ? にぎやかに決まっている。ブルーベリー星は初めてかしら?」
「いえ、何度か来た事はある」
「へぇリピーターなのね。嬉しいわ」
「アナタに伝えたいことがあります。兵士たちを、外に出してほしい」
 男の言葉に女性は一瞬無言になり考えるしぐさを見せる。
「あら私へのラブコール……ではないわね。ちょっとアンタ達、外に出なさい」
「し、しかし非常に怪しい風貌の男と二人きりにするのは」
「姫の命令に逆らうと言うの? はい死刑」
「ひ、姫様ぁ!!」
「冗談よ。まあもし一瞬でも変なことが起こりそうになったらすぐに呼ぶわ。多分私の予想通りなら必要ないけどね」
 兵士たちはお互い見合した後、腑に落ちない表情で王座の間から出て行く。

「さあ人払いしましたよ。要件を聞きましょう」
「……」
「出て行かせろと言ったのは貴方でしょう?」
 王国の王女は目を細め、笑みを浮かべながら言葉を促す。
「ある暴虐の限りを尽くす勢力がブルーベリー星を滅ぼしに来ます」
「……嗚呼確か悪魔の名前の。そう……こんな辺鄙な星にも来るのね」
 彼女はため息を吐く。現在宇宙では悪魔の名前、そうアスモデウスと名乗る勢力が数々の星を無残にも滅ぼし回っている事はブルーベリー星でも知れ渡っていたようだ。
「王国の血筋である人間はある宿命を背負っている。それを非とする人間がいて確実にアナタを、将来誕生する子供諸共……」
「へえ将来私が子供を。それに我が家の秘密も知っているのね。貴方、アームね?」
 的確な指摘に彼はたじろいてしまう。男は狼狽えながら答えようとするが不敵な笑顔で事実を突き立てた。
「!? 違う。俺はこの……」
「この次元のアームでは無い、でしょ? 見ればわかるわ。私の知ってるアームはやっぱり無理でしたとあっさり尻尾を巻いて戻って来るわけがないもの」
 女性は玉座から降り、彼の目の前に立つ。彼は後ろに下がろうとするが、「命令よ、止まりなさい。そしてちゃんと私を見なさい」と言われながら更にフードを脱がされてしまう。

 目を見開いた赤色の髪に眼鏡をかけた青年ドクをピンク色の髪の女性フィオナはやわらかな笑顔で見つめていた。
「やっぱり。……思ったより私が最後に見たアイツより数段も老けてるわね。嗚呼何故それが分かるんだと思ったでしょう? 当然よ。王国の秘密を知っているのは私の数少ない友人の中でも1人だけ。私の運命を知った友人は星を飛び出し何かを探しに行ったのよね」
「……俺はフィオナをあっさりと聖樹へと見送る事なんて出来ない、何かの間違いだと思い真相を確かめるために1人で旅をした」
「成果はあったのかしら?」
 青年は何も言わず首を振る。彼女は目を細め呟いた。
「結局真実で貴方の世界では私は聖樹に祈りを捧げたのね」
「……あの時無理矢理でもアンタを連れてハリウッド教団から逃げることが正解だった」
「あら。じゃあ私をこれから誘拐でもするのかしら?」
 また何も言わず首を振る。女性はカラカラと笑う。
「それでいいわ、もし言いだしたら私は全力で抵抗してやるわよ。美しい宇宙を、不安な人々を安定させる為に生贄になる事位何も思ってない。そうやって母上も、もっと前のご先祖様だって生贄となったのだから」
「だがこれから」
「貴方達が別次元から来やがったから歴史が変わってしまう、でしょう? まったく貴方本当に……愚かな民ね」
 聞き慣れた単語に本当にワガママな娘の母親だ、つい口元が緩んでしまう。
「あらどこか笑う所があったかしら?」
「いや娘も娘なら親も変わらんなと思っただけだ。くくっ」
「それは貴方の教育方針を間違えただけじゃなくて? まあいいでしょう。後で無礼の分ヒールで癒してあげる」
「ヒールだけはやめにしてもいいんじゃねえか? 俺はただアンタが信仰の玩具にされているのが嫌だと思っただけだし」
「あらもしかしてすっかり弱点になっちゃったの? もうほんっと口だけ達者な奴なんだから!」
 そう言いながら2人は心の底から笑うのであった。彼にとって今の時間はこの世界に来て初めてのもの。そんな出来事を愛していた女と再び共有できることが嬉しい事であった。

「そうね。宇宙の平和の為に死ぬのは悪くはないけど殺されるのだけは嫌」
 ひとしきり笑った後フィオナは呟く。
「その子にとってはリザレクション家は1人でいいってことなんでしょうけど。でも痛いのは嫌。殺されるくらいなら生贄の方がマシ」
「俺はお前の基準が全く分からない」
 変わらないだろうと彼は呟く。遮るように彼女は声を上げる。
「だって私の王国が、愛しい星が一度炎に包まれるという事でしょう? そんな所私は見たくない。民が死ぬ所なんてもっての外」
 涙を浮かべボロボロの黒衣を掴む姿を見て彼は、彼女がブルーベリー星のどんな人間よりも民を思い続けた人間だった事を思い出していた。
「私はこれから教団が見繕った婚約者と政略結婚し、子供を産み、そして生贄となる運命。自由を願いながら笑顔で消えると思っていた」
「俺はかつてそれを聞いた後、信じることが出来ず真実を探しに星を飛び出した。外に飛び出し自由に結ばれることも許されない運命を信じたくなかったが時間は許してくれず、フィオナが青い星に行ってしまう日となって。諦めきれなかったが俺は急いで星に戻ったんだ。そこで」
「でもこの世界は私が青い星に行くことは無いんでしょう? 最後まで抵抗してやるわ」
「……この世界でもアンタは死ぬ……」
 暗い顔をした彼を彼女は聖属性魔法、キュアをかけてやる。彼の身体に激痛が走る。毒属性の彼にとっては聖属性の魔法は弱点に等しい。しかも油断していた所を不意打ちでかけられ叫ぶことしかできない。
「っー!! な、何するんだ!」
「はー死人みたいに聖属性魔法が嫌いになっちゃって。大きい声出すんじゃないわよバカ」
「馬鹿はどっちだ!」
「知りませーん。なんなら私の特殊料理お見舞いでもいいわよ?」
「やめろ、不味い料理はあの娘だけでいいメシマズと自覚しているお前の料理までこの年齢で食らいたくない!」
 所謂殺人料理は毒ではないため彼は回復することが出来ずただ苦しむことしかできない。娘の料理も強烈だったが、彼女の料理まで食えと言われたら死ぬ自信があると彼は語る。
「じゃあ作戦会議ね。伝えに来たんだから責任とってほしいわ」
「……なんか周辺に誤解を与えそうな言い方だしその結論まで紆余曲折があった気がするが……まあいい」
「魔術は? 昔のアンタ工作ばっかで勉強してなかったけど」
「ちゃんとしてたわドアホ。まず何をしたらいい?」
 2人は彼女の許婚が叱りに来るまで今まであったこと、そして今後の事を話し合う。
 その後、彼は舌打ちしながらまた星を出て行きとある星を目指すことになる。

「ねえ、貴方はどこに行くの? 街でゆっくりすればいいのに」
「殺す気か。……俺はまだ王家の人間が生贄に発現する聖樹を信じていない。科学でもいいし魔術でもいい、もっと他の手段で死んだ者がよみがえる、そんな手段を探す」
 不敵な笑みを浮かべる青年に対し彼女は彼にとってかけがえのない存在であるある存在が脳裏をかすめる。
「アンタまさかだけどまだキムを……」
「やめろ。何も言うんじゃねえ。……じゃあな」
「本っ当に何に対しても諦めの悪い男。……次元が違う存在とはいえ貴方に会えてよかったわ。まああんまり下手な会話してたら大変なことになるからここまでね。また会えるかしら?」
「アンタが生きてたら会いに行ってやるよ」
「ふふっ。行くわよ私の希望」
 フィオナは青色の液体金属ひよこを連れ踵を返す。その後ろ姿に微笑み返し、ドクもまたフードを深く被り歩み出した。


>>あとがき

 久々のフィオドクであり初の航海日誌以降フィオドク。
 そもそもこの話を書いたきっかけは「どうしてブルーベリー朝の血を引く生贄が必要なのかを先代アルバの面々が知ったのか」という疑問。
 元々宇宙を平和にするための物では無く、教団の信仰に必要なものであったんじゃないかなって思いました。だから歴代の王国の王女は子孫を残した後、生贄の儀式をしていたと。
 もしかしたら最初旅に飛び出したのはフィオナを見送ったドクがミコにまで運命を負わせたくないから宇宙に飛び出すように仕向けたんじゃないかなって。
 でも何らかの手段で聖樹を知ってしまい、聖樹の奇跡に囚われてしまう。
 この星も滅ぼさなきゃとなったのもその生贄になるブルーベリー星の王家は自分で終わらせる決心のためで。
 流石にそれはおかしいと判断したドクはミコと喧嘩し船を飛び出し最初に行ったのはフィオナの所だったんじゃないかなーと考えた瞬間に頭が爆発して完成しました。 

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