――本当は分かっていた。現在直面している現実が、彼女が選んだ【役目】ということを。
ならば自分もそれに応えなければ、青年は焦りを見せていた。
鍵を首に下げた青年は目的のための破壊を繰り返していた頃に滅ぼし廃墟と化した星に降り立ち空を見上げている。
少し周辺の情報を探りまわると当然ながら自分も含めアルバのクルーは強い憎しみの対象となっていることを知った。きっと少女は彼らの憎しみさえも宇宙を平和にするための手段の一つだ、と無理矢理作った笑顔を浮かべるだろう。
「絶望のエネルギーだけ集めていたら、平和になるのか?」
青年はポツリと呟く。そう、この疑問が船を飛び出した理由の一つであった。鍵はカチャリとまるで青年に語り掛けるかのように揺れる。
「そうだな。同じエネルギーを集めるだけでは前の世界と変わらないよね」
誰もいない星でクスクスと笑う。
「君も思ってるだろ? ミコちゃんはこんな形になってしまったとはいえ俺達に【居場所】を、【理由】を与えてくれた。 だから彼女が叶えたい願いがあるのなら全力で叶えさせたいよね。
……さあお別れだ。永い間ありがとう」
青年は鍵を下げる鎖を外そうと手をかける。慌てるかのように鍵は跳ね暴れだした。
「分かっている。君を外したら俺は死ぬってな。昔々君に助けてもらったから今まで生き続けていた。でもユウノにも話したでしょ? 今の姿じゃダメだって」
抵抗する鍵を摘まみ笑顔でじっと見つめる。死へと直面する事態であるにも関わらず浮かべるやわらかな笑顔に暴れていた鍵は止まってしまっていた。
「なあ覚えてるか? 何もないこの星の事。……そうだねミコちゃんと滅ぼした星の一つ。でもそれだけじゃない。
ここは死にかけていた俺と次の身体を探していた君が出会った星」
そう、この星は彼らにとって思い出の場所でもあった。以前の世界でもこの星は廃墟が並ぶ人の住める所ではない場所と化していた。しかしそれは自然とそうなったものであり、この世界のように大きな存在が壊して回ったというわけではなかったのだが。兎に角その星で2人は出会った。死にかけていた青年が藁にもすがるように伸ばした手に触れたのが不死の鍵なのである。鍵は生きるために自分以外の生物と意思疎通を可能とする人型の肉体に寄生し、自分が生きる理由を探していた。前の肉体は朽ち果ててしまい、使い物にならなくなったため捨てて星々を回っていた所、死にかけていた彼を見つけ、肉体を借りることにした。1人と1体の利害が一致して以降、通常の手段では死ななくなった青年は鍵と共に生きる目的を探すこととなっていたのである。
そんな鍵を手放すと言う事はイコール死を選ぶと言う事。また孤独になるのかと鍵は語り掛ける。
「1人じゃないよ。もう俺達には仲間がいるし目的がある。君は新しい身体を探すんだ。そしてあのミコちゃんより先に今の世界のミコちゃんたちを探す。まあまだ誕生していないと思うけどね。
……俺はどうするのかって? まだ分からないのか? ヒントはね、今日は何の日か覚えてるかな」
青年は笑う。
「これは賭けだ。俺はもう一度今の世界のミコちゃん、アームさん、キムさん、ユウノさんの仲間になる。だって今は2つも意識を持った役目を探す鍵が存在するだろうから。
無茶だって? うん、自分も何を言ってるか分からないから。でも楽しそうじゃないか」
と言いながら鍵を繋ぐ鎖を切る。
「さあ行けよ白金の鍵。なんとしてももう1人の世界のミコちゃんを守って俺の前に連れて来て。大丈夫、絶対また会えるからさ」
鍵は涙を流しながら満面の笑顔を見せる青年をしばらく見つめる。しかしもう彼の決断を歪めることが出来ないのだと察したのかふわりと浮かび光のような速さで去って行った。
「さて、待ちましょうかね」
そう言った瞬間、青年はぐらりと身体が揺れ、倒れ込んでしまう。永く生きた代償なのだろうか、胸の苦しみが増していき、意識も少しずつ遠のいてゆく感覚が孤独の寂しさと共に襲い掛かる。
「あーやっぱ苦しいわ。あの時もこんなに苦しかったのかなぁ」
最後の力を振り絞すように手を空へ伸ばす。
鍵と別れの時、賭けと称し死ぬかもしれないと言う事は分かっていたが、希望があるのだからなんとかなると思っていたため怖くはなかった。だがいざ死と隣り合わせとなった瞬間、永く生きた弊害なのか、『死にたくないでも今まで共に戦った彼は戻ってきて欲しくない』と、内面でのせめぎ合いは彼の心を苦しめていく。頭の中では幸せだった日々が浮かび上がり、また彼らと旅に出たいと青年は願った。
その願いが届いたのか、はたまた以前の世界と同じく偶然通りかかったのだろうか。
何も知らずにヒトの肉体を求める愛しき白金の物体が伸ばした手に近づき優しく触れた――
>>あとがき
彼の居場所を与えたのは彼女であり、その恩返しをしたいのだという感じで。彼女が幸せならそれで十分だと思ってるんじゃないかなと妄想しました。
そしてその体部分は白マスジョのモノとなったって感じで。
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