『私たちにはもう、こうするしか道は残されてないの』と少女は冷酷な笑みを浮かべる。
あの笑顔を思い出すだけで純粋だった我儘少女を悪意に満ちた存在に作り替えてしまった仲間に、自分に、そして聖樹に対し怒りが湧き出すのだ――
「ジョー、行ってしまうのね」
銀色の長い髪を揺らしながらユウノは怒りながら船から飛び出そうとした鍵を首に下げた青年ジョーを追いかけた。彼は機嫌の悪い表情を見せながら振り向く。すっかり以前に比べ鬱暗い表情になってしまったクルーの中でも年長者な2人はお互いを見つめ合う。
「当たり前だ。俺は人を殺すためにアルバトロシクスのクルーになったわけじゃないから。君もこんな暗い瘴気に全て奪われてしまう前にここから出て行く方がいい」
「もちろん私も出て行こうと思っていますわ。銀河を股に掛ける悪者になるよりやはり悪を倒す方が楽しいですもの」
そんな彼女の言葉を聞いて頭をボリボリ掻きながらため息をつき安心させるかのように近づいた。
「そんなことより。ねえジョー、出て行くのはいいですけどどこに行く気なのです?」
「宇宙のどこかに俺たちに反抗しようとする自由を掲げるレジスタンス的な同盟があるという噂を耳にした。そこを目指すよ」
その言葉に彼女は目をぱちくりさせる。でも私たちは悪い意味で有名人よ、どうするの? そう言いかけたがその回答はお見通しだった様子。彼女の言葉を遮るように続ける。
「簡単だ。今の名前を、姿を捨てればいい。そりゃ【俺】だってもっと生きていたいけどいいこと思いついたから彼に託すさ」
「いいことって今度はどんな企みを思いついたのかしら?」
彼はニヤリと笑う。そして自分、彼女と指をさす。
「ここは俺たちがいた世界じゃない。所謂別の俺たちが生きようとする世界。じゃあこの次元のどこかに俺たちがいる筈だからこっそりもう一度俺たちを集めてマンボウの宇宙船を作らせるんだ。勿論ミコちゃんに知られないようにね」
「嗚呼なるほどそういう事ですか」
告げられた作戦に彼女は手をぽんと叩き、貴方も悪い人ですねと言うと彼はワハハと笑っていた。
「悪い発想ではないと思うぞ。多分今のミコちゃんを止める事が出来るのはまた別のミコちゃんだ。もう今ここにいる俺やユウノさん、キムさんやアームさんですら無理だろう。だから別のミコちゃんを壊さないように、そしてミコちゃんを見つけるだけでなく彼女を取り巻く俺たちをまた集めようって思った」
「集まるかしら。今とかつてでは状況が違いすぎます。私たちの時はこれみたいな邪悪な敵はいなかった、もしかしたら気が付いたミコの手によって欠けてしまうかも」
誰もが思うだろう不安な言葉に対し彼は苦笑してみせる。そう、今のミコリザなら全てを滅ぼすために手段を消して回ってしまいそうなのだ。自分たちの楽しかった日々の痕跡を消そうとする行為を許したくない、だからやらなければと決意するかのように拳を握りしめた。
「絶対に出会えるよ。それが運命というものさ。そのために俺が手助けしてやろうと思う。世界を救う手立てだって一度世界を救いかけた俺たちは知っているでしょ?」
「この世界にいる私たちに私たちの世界で起こった出来事をそのまま予言する、って事かしら?」
「うん。今のミコちゃんが宇宙を壊すならまた別のミコちゃんたちが今までの俺たちみたいに宇宙を救えばいい。かつての俺たちは悪意に満ちてはいなかった。
……目を閉じると世界を救う時の俺や楽しかった仲間たちが今でも見える。何億年も生きて来た中でもこれほど煌いていた時は未だに1つも忘れていないさ。だから悲しそうな表情を見せないで、ユウノ」
今にも涙を流しそうな彼女を優しく抱きしめながら小さな声で呟く。
「ユウノさん、君と出会えてよかった。今まですべてに絶望してた俺を救ってくれたのは君やあの3人のおかげだ」
「……なら私も、自分が出来ることをしなければいけませんわね」
そう言いながら彼女は彼の身体に手を回し、顔を上げ弱弱しいが笑顔を見せた。
「貴方の手助けをいたします」
「でも君の姿は……」
「あら今の姿、名前を捨てればいいですわ。身体を変えることなんてワタクシトドック星人には朝飯前です。」
「はははっ君は自らの肉体を作り変えることも出来た事を忘れてた。でも何をするの? 俺と一緒には行けないだろうし……」
彼女はふふふと笑い、彼の決意を聞きながら遠い昔父親から教えてもらった【この銀河全てを裏で牛耳る都市伝説に近い秘密結社の存在】を頭に浮かべていた。
「勿論付いて行きますとは言いません。でも私だっていいこと思いつきました。簡単に言えばその自由を取り戻そうとする同盟を経済的に支援します。そのためにこの銀河を裏で統べるとある場所に潜入というのはどうでしょう?」
「これはこれは大胆なご夫人だ」
その言葉に照れ笑いを浮かべながら確実に貴方を手助けできる手段を口に出しただけよ、そう言葉の最初に足しながら言葉を続けた。
「そこで同盟と結びつけるための手段を探しますわ。私だって別次元の皆を見てみたいです。それまで貴方が言う未来だけど昔の思い出をそのまま予言として歌にしましょう。きっと私たちは理解してくれるしまた一緒に冒険できますわ」
「それは面白そうだね。……じゃあ決まったな」
「はい」
もう2人には陰鬱とした表情はもう必要が無くなっていた。お互いニコリと笑顔を浮かべ優しく口づけを交わす。
「えっと。ユウノさん、俺はあなたの事が好きでした」
「あら奇遇ですね。私もジョーの事は嫌いじゃありませんでしたよ。むしろ好意を抱いておりました」
「そっか。もっと早く言えばよかったかも。まあ姿は違うけどまた会えるし続きはいつかその時に。じゃあ」
2人は再び口付けを交わしマンボウの船に備え付けられていた2つの小型のピットに乗り込む。
『また』
重なった声が格納庫で響き、直後辺りに響く小型ピットが立てるエンジンの音によりかき消された。
――こうして2人はかつてのマンボウの船を飛び出した。次なる世界に希望を伝えるために。
そしてプライドが高く、全てを欲しがる悲しき物欲少女を救うために。
>>あとがき
最後に両片想いだったって気付くのが2人らしいかなって勝手に思いました。
そして何故2人がそれぞれ同盟、秘密結社に行ったかって理由なんですけど、単に【彼らは星を滅ぼす者たち】と恐れられてて顔がバレてるのに反発組織に入れるのはこの2人だけじゃね? と思ったからです。
マスジョは身体を乗り換えしたらいいだけだしユウノは身体を変化させる事が出来ますし。
なんかうまい具合にそれぞれの場所に潜入して予言者や参謀ポジションで口出しできる立場になれそうですしと思いました。それだけ。
キムコンやドクの話はまた今度。
>>閉じる