俺は兵士だ。そして兵士であり天才科学者でもあった。宇宙に破壊をもたらし、人々を絶望させ畏怖される悪魔の名前を冠した帝国アスモデウス。その宰相ダークエクス卿に仕えている。
ダークエクス卿は俺に真実を教えてくれた。世界が、広い宇宙が、それらを包み込む銀河が弟を殺したことを。彼らを死に追いやり絶望のエネルギーを集めることが復讐への近道だと。
定めを認めず広い宇宙に飛び出し彷徨っていた所に手を差し伸べてくれたのがあの人だった。俺の研究を理解し、場所を与えてくれた。
俺はそれに恩で返さないといけない。だから数々の星を破壊しつくすのだ。
「殲滅完了――」と、俺はボソリと呟いた。炎に包まれた星、自分の声以外何も聞こえない。
俺が降り立つまでは小さくて平和な星で子供達は幸せだったのだろうし、大人達は日常を噛み締めていただろう。ダークエクス卿に選ばれたという不幸を除いたら何も起こらなかったかもしれない。
ただ1人の人間によって小さな星は戦場と化した。この星には防衛の設備が貧弱であったため他人の手助けも必要が無い。片手には深紅に染まった剣、片手には自らの手で改造を施した銃。【これ】だけで全て終わる。悲痛な叫び、泣き声、命乞いをする者達……その声が心地いい。弟を奪い、愛する者までも奪おうとする世界なんて全て滅んでしまえばいい!
嗤う。誰もいない筈の星でゲラゲラと俺は笑っている。「おーい」という声が聞こえるまでは。
「おーい……聞こえなかったかな? おーい!」
背後から男の声が聞こえる。先程まで全く気配が無かったはずなのにいつの間に現れたのか。いや、隠れていただろうにわざわざ殺されに来てしまったのだ、哀れな奴である。俺は振り向きながら銃を撃ち放った。銃声が響き、相手の声をかき消す。声を発していた人だったものはパタリと倒れているのを確認。
気安く声をかけやがった人の顔でも拝んでやろうと近づく。自動照準により頭に当たったはずだ。生きているはずはないと完全に油断していた。
「いってぇ!?」
「!?!?」
倒れていた男は急に叫び声をあげ起き上がる。俺は「いっ……!?」と短い悲鳴を上げまた男に発砲する。
「や、やめ、やめて! 死ぬほど痛いんだよ!」
「殺そうと思ってんだから当然だろ!?」
緑色の紙の男は何発急所に撃っても起き上がり近づいてくる。その模様は昔映画で見たことがある。ゾンビという架空の存在だ。まるでゾンビのようだがありえない。これまで不老長寿、数々の奇妙な宇宙人達を殺めてきたが死ななかった奴はいなかった。何か仕掛けがあるに違いない。そうありえないのだ。悪ふざけで科学的に説明が付かない存在を許すわけにはいけないのだ。
「お、落ち着いてよー」と言いながら近づく血まみれになっている男に対し脳内で警笛がけたたましく鳴り響いている。恐怖で足は震えバランスを崩す。これまで人を殺し回っていた自分が恐怖? ありえない。
「ありえない、ありえないっ! お前の存在を認めない!」
「えぇ……俺何かおかしい所あるか?」
首を傾げているがおかしい所しか存在しない。剣を捨て必死に指をさす。
「どういう仕掛けで俺の攻撃をっ! 撃ち抜かれても死なないなんておかしいだろゾンビかよ!」
「あーそういう。ほーら俺はゾンビだぞーガオー」
ゾンビという単語に反応したのかからかうように俺に向けポーズを決めてにじり寄ってくる。
「ち、近づくなふざけるな!」
「うんふざけたな、ごめん。でも俺不死身だから攻撃止めてね。君にとっては弾の無駄遣いだし、oreは死なないけど痛いんだよなぁ」
遂には銃口を手で覆われる。
「撃ってもいいけど君が怪我しちゃうぞ? 大丈夫人肉はおいしくないから絶対食べないし感染もしない。つーかそもそもゾンビじゃないんだわ」
「不死、身」
「はじめまして。Dr.ARMくんでいいんだよね? あー答えなくていいよ」
「アンタは……誰?」
「俺? 俺はただの旅人だ。君を探してた」
胸に下がった鍵がカチャリと揺らす不思議な男は柔らかい笑顔を俺に向けた。
そうこれが不思議な不思議な宇宙人、ジョーとの出会い。
>>あとがき
白ジョードク出会い話。星間航路で書いたドクジョ話との違いとしてはもし肉体の方が主導権を持っていたらみたいな。あっちは鍵側が主導権を握っている想定です。彼らの関係は飲み友達ですが多分帝国兵時代に出会ったんだろうなーと思った。
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