短編│七夕

「兄さーん!」
「兄様ー♪」

 あの2人の声が響く。懐かしい気持ちが湧いて来る。

「どうした?」

 小さな俺は駆け寄ってきた2人の方に振り向く。すると笹を持った少年と紙切れを持った少女。

「さて今日は何の日でしょう」
「いやーマスター流石に私達がこれらを持っているの見たら分かるでしょー」
「ん、今日か? 今日は……」

『七夕』、3人の声が重なる。

「いやあヒントを出しすぎたか?」
「そうですねえ。いくら日付感覚が無い兄様でもここまでヒントがあったら分からないとそれこそ頭の中身を疑いますよ」
「おうお前らバカにしてるんだな。正座しろ正座」
「嫌でーす」
「はははごめんよ兄さん」

 2人は懲りずに笑みを浮かべている。俺は呆れて何も言えない。

「そのお詫びにはいどうぞ、短冊をお渡ししますので書いてくださいね」

 紙切れを渡される。今から皆で書いて笹に吊るすのだろう。

「はいはい。嫌と言っても勝手に変なこと書かれるだけだからな」

 溜息。そしてペンを取り出し1枚の紙に向かう。

『―――』

「何を書くんだ?」
「あー待てっつーに今考えてるからよ」

 いや、違う。考えていると言っているが実は既に書くことは決まってるのだ。

『―――ク』

そう、俺の願いは――。

 

「ドークー! 起きなさいよー!!」
「む」

 ハッと気が付くと周りには少年と少女も、願いを書く紙も喪失していた。

「夢、か……」

 ボソと呟く。聞こえないように言ったつもりだった呟きが聞こえてしまったのだろう、彼を起こした声の主が声を上げる。

「あのねー。夢か、じゃないわよ! いつまで寝てるんだお! 起こしに来てやったの感謝しなさい!」

 少女、ミコは少し怒った風な素振りを見せる。

「あ、ああすまんすまん」とミコの説教に対し適当に謝る。
「そうかもう起きる時間だったのか」

 先程の光景は夢だったのか、溜息をついた。残念というわけでは無い。少しリアルすぎたと思っただけだ。

「ほらジョーがご飯作って待ってるわ。私お腹空いちゃったのよ!」
「いやお前は普段から腹ペコズンド…」
「なーにーかー?」

 思わず言いかけた言葉を飲み込む。今以上怒らせてはいけない。

「なんでもねえよ。ほら先に行ってろ。すぐに行く」
「分かった!」

 ミコは扉へ向かっていく。だが「いや待て、ミコ」とつい呼び止めてしまう。

「むー何よー」

 ふと思いつく。少し位聞いてみてもバチは当たらないだろう。

「七夕って知ってるか?」
「たなばた?」
「天の川により離れ離れになってしまった織姫と彦星が1年に一度だけ会える日のことだよ。短冊っていう紙切れに願いことを書いて笹に吊るして星に願うとある星の行事だ」
「へー!」

 キラキラとした目を向けてくる。きっとロマンスでも嗅ぎとったのだろう。

「だから、その……お前の願いは何だ?」

 単刀直入に聞くのが早いがやはり恥ずかしいところもある。少し目をそらしてしまう。

「お願いごと? ……そうね……」

 ミコは満面な笑みを見せる。

「キムにジョーにユウノにそしてドクとずーっと一緒にいれますように!」
「……そうか」

 彼は素っ気ない答えを返す。しかし少し顔が熱くなっていた。

「ドクは?」
「は?」

 素っ頓狂な声を上げてしまう。ミコは彼の言葉にきょとんとした表情を見せ、「だーかーらー! 私の願い言ったんだからドクも教えなさいよー」とドクに詰め寄る。
 よく考えなくても言われるのは予想がついていただろうに、考え込んでしまう。そしてふと浮かんだ願い。

「っ!?」
「あ! ドク顔赤い!」

 俺は必死にそっぽを向き声を荒げミコに叫ぶ。

「別になんでもねえよ! とっとと飯に行け飯に!」
「うん!そうするお! ……後で皆からも願い事を聞く……じゃなくて書いて吊るしましょ、ドク」
「……勝手にしろ勝手にな」
「その時はドクも書くのよ! 今はそれで許してやるんだから!」
「あーはいはい分かりましたよーだ! とっとと行け!」

 顔が熱い。ぱたぱたと去っていく音が響く。俺は天を仰いだ。

「言えるわけねえ……―――」

 本日何度目かわからない深い溜息を吐いた。


>>あとがき

七夕2016年ver。リメイク済み。
前半は長編ネタ。後半は現在って感じです。 ドクさんのうっかりからのデレとそれを弄るミコリザという構図がね。クルーの中で唯一ドクを引っ張って行くのが似合うんですよミコリザって。 聖属性のミコリザと毒属性のドクさんという逆転の構図が際立ちそれが最高だと思うんですよドクリザ。

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