聖なる夜のその前に

「ドク聞いてお聞いてお聞いておー!!!!」
「おうどうしたお姫さん。今日もポンコツと喧嘩か平和だな」

宇宙という名の海の航海を続けるマンボウ型宇宙船アルバトロシクス号。今日も姫と執事は喧嘩三昧。喧嘩した時はドクの所に駆け込むまでが日常であった。
アンドロメダ科学新聞(子供向け)を読みふける天才科学者ドクはミコの叫びを聞き新聞から一時的に目を離した。

「平和って失礼だお!!これは我等クリスマス同盟にとってゆゆしき事態なんだお!!」
「なんだってそれは本当か?ほら話してみろ仲間だろ」
「ねえユウノこの2人の精神年齢って……」
「言ってはいけません」

同じなのでは? と言いかけた新聞を読みふけるドクを観察していたジョーは隣に座っていたユウノに言葉を止められた。とりあえず様子を見てみましょうとふふふと笑いながら2人を指をさす。

「我がサンタさんに手紙を書いてたらきむがサンタなんていないって言ってきたんだお!」
「っ!?」
「ミコちゃんサンタ信じてるんだなあ平和だなあ」
「平和ですねえ」

ミコの言葉にジョーとユウノは目を見合わせクスクス笑う。今日は12月の初旬、子供達がクリスマスを心待ちにしている頃。それはミコも例外ではないという事であった。ドクはそんなミコの言葉に対し肩を掴み真剣な目で喋り出す。

「おいキムがそんなこと言っているのかそれはいけねえな。サンタはいる。本当だぞミコ」
「だよねー!!」
「おーアームさん珍しく優しい。育て親としての本分を果たしてる」
「そうですねえ」

ミコにとってドクは育て親という存在。そろそろ成人も近いはずだが可愛い娘の夢を壊さないドクに対しジョーは感嘆の声を上げる。毎年いると言い聞かせてドクがベッドの傍に置いてるんだろうね、と2人は心が温まる。

「というわけで今年もサンタさんにちゃんとお手紙届けてくれるかお?」
「あぁもちろんだ。ちゃんとサンタに届けてみせるぞ、安心しとけよな!」
「わーいだお! わーいだお! ドク大好き!」
「へいへい」

喋るだけ喋り手紙を渡したミコは手をブンブンと振り部屋に戻っていった。ドクは適当に相槌返し再び新聞に目を向けた。
そんなドクに対し2人は感心したと言いながら話しかける。

「……アームさん意外ですね。こういう時はキムさんと一緒だと思ったのに」
「夢見る娘に希望を与えるなんて凄いですわ」
「?何言ってんだ?サンタさんはいるに決まってるだろ」
「は?」
「はい?」

部屋の空気が凍り付く。聞き間違えたのかな?とジョーは再びドクの言葉を確認しようとするがドクは相変わらず新聞から目を離さず言葉を続ける。

「お前たちはだいぶ前に大人になってるから分かんねえけどサンタさんいるんだぞ。いやあ俺もプレゼントは欲しいがいい大人だから我慢してるんだよな!」
「本気で言ってるんですか?」
「ジョー駄目よ。あの目は本当に信じてる目ですわ」
「ひえぇ」

現実を教えるべきではないか、とジョーはユウノに目配せをするがユウノは目を閉じ首を横に振る。天才と何かは紙一重である、ジョーの心に深く刻まれるのであった。

ジョーがため息を吐いた直後、慌ただしく執事キムが部屋に駆け込んできた。喧嘩の後はミコ、キムの順番にドクの所にやってくるのは日常茶飯事である。

「おいドク!」
「おーキムかちょうどお前に用があったんだ。というかミコを苛めるのも程ほどにしておけよ」
「いやそんなことしてるつもりはないんだけど」

再びドクは新聞から目を離しキムを見る。キムは少し顔を赤くし目を逸らしながら言った。
ジョーとユウノはそんな2人を見つめている。理由は楽しいことになりそうな予感がしたから、と後に語る。

「あら今日もミコと入れ替わるようにキムが」
「サンタいない派のキムさんだね」
「そんなことより!ミコはさっきここに来たんだよな?」
「ああ来たぞ。ほらちゃんとこれサンタさんに届けに行ってくれよ」
「は?」
「え?」

ドクはキムに先程渡された手紙をポイと投げる。キムは大切そうに懐へ仕舞った。その様子にジョーとユウノは目を丸くしている。

「ふ、ふんしょうがないな。いい加減サンタから卒業しろよいくつまで信じてるんだろうナァあのばか」

キムはハハハと言っているが目は笑っておらず視線は泳いでいる。どこかいつもと様子が違う。
対してドクはそれを茶化すのかと思いきや満面な笑顔を見せキムに喋る。

「おいおいサンタはいるに決まってるだろうお前がいつもサンタに手紙届けに行くことでちゃんとミコはプレゼント貰ってるじゃないか」
「ん?」

ドクの言葉にジョーは違和感を感じ首を傾げる。

「まあそりゃそうだけど……まあサンタに手紙を届けることが出来るのは僕だけだから。じゃあこの手紙は受け取っておこう。では失礼」
「あらあら」

ユウノは手を口に当てキムを見た。キムは手を上げ部屋から飛び出していく。ドクはミコの時と同じくキムが出て行ったのを見て喋りながら新聞に視線を落とす。

「おう頼んだぞー」
「スキップしながら出て行った」
「あのキムが鼻歌を歌いながら」

ジョーが部屋の外を覗くとキムはスキップをしている。彼がスキップまでするとは珍しい、と目をパチクリさせる。

「あーキムはサンタの住んでる場所を知ってるからな。それを悟られないようにミコに嘘をついているんだぞ。いい奴だなあポンコツのくせに」
「え、あ、はいソウデスネ」
「ウワーキムッテスゴイ人ダッタノデスネー」

ドクの一言に対し2人は開いた口が塞がらない。つい棒読みで対応してしまっていた。ジョーはユウノに目を向けて声をかける。

「ねえユウノ」
「ちょっと覗いてみますわ」

ユウノも水晶球を亜空間から取り出し魔法の呪文を唱える。するとキムの充電室が映り出した。

*

キムは扉を閉め鍵をかける。高鳴る胸を抑えながら傍に置いている500円玉貯金箱と懐から受け取った手紙を取り出した。

「よし、今年もやって来たか。扉は……閉めた。鍵もかけた。貯金箱……よし大丈夫。手紙は……あー読むか。えーっと」

『サンタさんへ。いつもプレゼントありがとおだお! 今年はメルク星で売っている限定バックが欲しいです。最近わたしの執事がサンタさんを馬鹿にするんだお。これは見返したやるためにお願いするお! みこ』
可愛らしい文字で書かれるキムにとっては無茶な要求。キムはため息を吐いた。そして頭の中のコンピューターをフル稼働しまず周辺の地図を確認する。

「……えっとメルク星はここから……うん近い方だな。手紙届けると称して休暇を貰えば買いに行けるな。値段は……うへぇ相変わらずエグイもの要求しやがるコイツ。あとは限定とやらだから買えるかどうかだなあ」
「よし。行こう。早く行かないとユウノさんとかジョーに怪しまれる」

コートを取り出し部屋を飛び出していく。足取りはやはりどこか軽い。

*

「だそうですわよ奥さん」

今視た風景をユウノはジョーに報告する。まるで井戸端会議の主婦のようだ。ニヤニヤと笑い顔を見合わせている。

「これは面白いものを見ましたねえ奥さん」
「うふふふふ」
「あはははは」
「お、おーい老公共何の話してるんだー?」

そんな話題は気にも留めないドクは呑気な声で2人に声をかける。老公、という言葉に一瞬青筋立てる所だったがそこはグッと抑えることにする。

「純真なお子様には難しい話ですよアームさん」
「貴方には早すぎますわねドク」
「ガキ扱いすんなよ俺もそれなりに生きてるんだぞ! ただちょっと純真に少年の心を持ち続けてるだけだからな!」

その発言にジョーは指でこめかみを押さえ、ユウノは苦笑いを見せた。